はじまりは「せっけん運動」と「廃食油回収」
1976年ごろ、琵琶湖の水質悪化が深刻化する中で、家庭から出る生活雑排水の問題を重視した消費者が中心になり、合成洗剤に代えて「せっけん」を使おうという運動が滋賀で始まりました。
この動きは、翌1977年に琵琶湖に大規模赤潮が発生したことをきっかけに、大勢の県民や各種団体を巻き込んだ「せっけん運動」へと拡大し、琵琶湖の富栄養化を防止する条例(びわこ条例)制定の原動力になりました。
そして「せっけん運動」と並行するように、1978年に「家庭から出る廃食油を回収して、せっけんへリサイクルする運動」が始まり、せっけん運動と連動して県下に広がっていきました。
やがて、住民・消費者団体・市町村などの協力を得て、家庭から出る廃食油を回収するための拠点はその数を増していき、廃食油回収の取り組みは滋賀県下各地に広がり始めました。
しかし、「びわこ条例」に対抗して、洗剤メーカーが「無リン合成洗剤」の販売をはじめる中で、一時は7割を超えたせっけんの使用率が急速に低下してしまいました。そして、その一方で、廃食油の回収量は増大していきます。せっけんが使われないと、廃食油のせっけんへのリサイクルは「循環サイクル」を維持できません。
廃食油を資源として有効活用するためには、せっけんへのリサイクルとは別の、廃食油の新しいリサイクルの仕組みをつくり出することが、大きな課題になってきました。
そして、そんな中で出会ったのが、ドイツでの「ナタネ油プログラム」でした。
ドイツのナタネ油プログラムとの出会い
ドイツでは1970年代に世界を襲った石油危機を教訓として、資源枯渇が考えられる化石燃料に頼らない、しかも温室効果の高いCO2を抑える化石代替エネルギーとして、ナタネ油の燃料化計画を強力に進めていました。
資源作物としてのナタネに注目し、休閑地を利用して、食料としてのナタネではなく、エネルギーを生み出すためのナタネ栽培を進めていたのです。
ドイツにおける取り組みから、「エネルギーの自立に、農業が関わっている」ということを教えられました。
「アグリカルチャー・アズ・エナジーサプライヤ」(エネルギー供給者としての農業)という言葉は、せっけん運動がつくり出してきた「地域自立の資源循環型社会」づくりを、さらに前に進めていく、大きな鍵になりました。
1998年に、ドイツを訪問したときには、ナタネの作付け面積は100万ヘクタールにも及び、ナタネ油から精製した燃料をおくガソリンスタンドが、全国に800カ所も設置されていました。
その後も、何度かドイツ視察を行っていますが、資源作物としてのナタネの作付け面積はその後も増加しています。
菜の花プロジェクトの誕生
転作田に菜の花を植え、ナタネを収穫し、搾油してナタネ油に。そのナタネ油は家庭での料理や学校給食に使い、搾油時に出た油かすは肥料や飼料として使う。廃食油は回収し、せっけんや軽油代替燃料(BDF)にリサイクルする。せっけんやBDFは地域で利活用する。
「地域自立の資源循環サイクル」の形が見えてきました。
この取り組みを、愛東町が始めたのは1998年でした。「菜の花プロジェクト」の誕生です。
従来の廃食油の回収・リサイクル事業が、この「菜の花プロジェクト」によって、さらなる広がりを見せるようになりました。
この資源循環サイクルは、菜の花プロジェクトに意欲的に取り組んできた愛東町(現在は東近江市)での成果をもとに、さらに、養蜂との連携、菜の花の観光利用、小中学校などでの環境教育としての利用など、地域内のより広く深い資源循環サイクルへの広がりになってきています。
ドイツの取り組みに触発され、これまでの取り組みを踏まえて創り上げてきたのが「菜の花プロジェクト」です。そして、「愛東モデル」に触発され、さまざまな自治体や市民団体によって、同様の取り組みが生まれるようになりました。
しかし、そうは言っても、まだ「資源循環型社会」「地域自立のエネルギー」の地域モデルの基礎ができたばかりです。全国に広がる転作田・休耕田の有効利用による農地の保全など、地域の経済を再生しながら、一方通行の使い捨て型社会を脱して、資源循環型社会を創り出していくためには、国や地方自治体を巻き込んだ取り組みが必要です。
石油に大きく依存するわが国でもいつまでも化石燃料に頼ってはいられません。COP3で合意された温暖化効果ガスの削減のためにも、「脱化石」のしくみを戦略化させ、実行に移す必要があります。
事故や故障が相次ぐ原子力は、その切り札になりうるでしょうか?
私たちは菜の花から生まれるバイオマス燃料(BDF)に、化石燃料依存社会に代わる「脱原発」「脱化石」社会の形成への可能性を感じます。
菜の花プロジェクトネットワークの設立
平成13(2001)年4月28日、滋賀県新旭町で、全国で「菜の花プロジェクト」を実践している人、関心のある人に呼び掛け「菜の花サミット」が開催されました。
サミットに参加したのは、主催者の予想を大きく上回る27府県・500人を超す人々。
どの地域から参加された人々も、自分の住む地域の将来を、菜の花プロジェクトの取り組みから切りひらいていこうという熱意で溢れていました。
サミットは、基調報告、基調講演、全国各地からのリレートークが行われ、締めくくりに「菜の花サミット宣言」が採択されました。【→宣言文】
プログラム1により、「菜の花プロジェクトネットワーク」が設立されました。
プログラム2の「菜の花サミットの継続定期開催」は、次回が青森県横浜町、第3回目は広島県大朝町で行うことが決まりました。
また、プログラム3に基づき、「菜の花議員連盟」が立ち上がり、国や都道府県に「軽油代替燃料は非課税扱いする要望活動を行う」ことも合意されました。
こうした経過を経て誕生した「菜の花プロジェクトネットワーク」はその後、毎年開催される「菜の花サミット」で体験や成果の交流を行いながら、徐々に、参加団体を増やしてきています。
そして菜の花プロジェクトネットワークは!
菜の花プロジェクトネットワークは、市民イニシアティブに基づいた産・官・学・民のパートナーシップにより、菜の花を中心とした資源循環型社会の具体的な地域モデルづくりを推進し、地域自立の循環型社会形成の推進を目指しています。本部は滋賀県安土町にあります。
菜の花プロジェクトネットワークは、資源循環型社会の実現に向けて、バイオマスエネルギーについての国内外の情報交換、資源循環型社会に向けての調査研究、中央・地方政府への政策提言活動、全国にある菜の花プロジェクト関連の個人・団体のネットワーク形成などを行っています。
私たちは、「菜の花が、地域と地球を救う」と考えています。
さあ!あなたの地域でも、菜の花プロジェクトに取り組んでみませんか?
(菜の花プロジェクトは「愛・地球博」の開会式で、未来プロジェクトとして紹介されました)